火葬場は山の中にあって、この施設には緑の山々が見えるベランダがある。
佳乃子は母の火葬の時もここで風に当たりながら父と母の話をした。
涙で濡れた頬も風で乾いていく心地よさを感じながら話したことは今も覚えている。
今日も風が撫でるよう柔らかくゆっくりと心を落ち着つかせてくれる。

告別式では梓や楓のおかげで父と向き合って過ごせた。

母の時には父と母との思い出話を話し込み過ぎて、職員さんに呼ばれて慌てて待合室に戻ったことを思い出した。

佳乃子はそろそろ戻ろうとベランダから廊下に入ると廊下にカバンを持った浩介がいた。
浩介は佳乃子を見つける近くまで来た。

「あ」
「佳乃子、大丈夫?」
「うん、まぁ」
ーーカバンを持っているということは骨上げの前に帰るのね

「ごめん。明日朝イチに会議が入って、今日中に帰らなくちゃいけないんだ。」
「今日はありがとうございます。」
「ほんとごめん。それから」

「あの!…さ。今は違うから。このまま帰ってください。」
そう言って佳乃子は浩介に背を向け、逃げるようにベランダに戻った。

暗い廊下の中、静かに浩介の言葉が落ちた。
「ごめん。」