父と浩介が初めて会った時だ。
佳乃子が逃げ出そうとする父に口すっぱく家にいてと言っていたが
父は浩介が到着する時間の2時間前に家を出ようとした。
しかし玄関に出た時、緊張して約束の時間よりも早くついてしまった浩介がいたのだ。

「わざわざお父さんに出迎えていただきありがとうございます。」
浩介は頭を深々と下げた。
その後は面食らった父とあっという間に浩介は打ち解けてしまった。
持ってきた酒を酌み交わして
「お父さんに歓迎されて良かった」
と大喜びだった。

結婚後何年かして、あの頃はねと本当の話をしたが浩介は「いやいや、お父さんは最初っから緊張して家の前をウロウロしてた俺を見つけて優しく迎えてくれたんだよ」というポジティブに勘違いを拗らせていた。

浩介は佳乃子や佳乃子の周りのことをポジティブに受け止めて疑わなかった。
佳乃子はまぁ、いいかと突っ込まずそのままにしていることが多かった。

そこまで信頼してもらっていいることに喜びも感じていた。
私たちは大丈夫だと信じて疑わなかった。

ーーでも浩介のいつも見守ってくれる温かさはもうない。
お父さんもいなくなって浩介も。
ひとりぼっちになるんだな。

「お母さん!」
梓が隣に来て背中をさすってハンカチを渡してきた。
そこで佳乃子は自分の涙がぼたぼたとスカートに落ちていることに気づいた。

そこからは涙が止まらず、告別式の間も梓が隣で佳乃子の身体を支えるように寄り添ってくれた。
楓も近くに座って気にかけてくれていた。