買ったものが全部冷蔵庫に入ると佳乃子は手を洗いながら
「お茶でも飲んで一息入れよ」


「うん。…ちょっと。話がしたい」

いい話じゃないなと浩介の固い表情の横顔を見て佳乃子は思った。

「うん。お茶入れるね」
佳乃子が明るく話すが、浩介はこちらを見ない。
「…いや、いいよ」

佳乃子は夫婦湯呑みを元の場所に戻した。
体がずんと重くなった様に感じた。

「にゃあ」

キッチンにすずが鳴きながら尻尾をピンとあげてこちらに向かってきた。
少し見なかった浩介に挨拶をしに来たようだ。

「すず。元気か」
浩介はすずを優しく抱いてダイニングテーブルに座った。

佳乃子は浩介の向かいに座ると、すずは浩介から離れダイニングテーブルの下に潜り佳乃子の足元に座った。

「別れてほしい」

思ってもいない言葉が聞こえると同時に耳鳴りが微かに聞こえ出した。

こんなに近くにいるのに浩介がすごく遠くに感じる。
声も届かない。

相手の言葉も聞こえない。
息もできない。

そんな世界の中でただすずのしっぽが足に絡みつく。
その現実とアンバランスな感覚だけが佳乃子はここにいると教えてくれているようだった。