絵を描いていると心が弾む。でもそれと同時にプレッシャーも感じる。周りにいる奴はみんな上手くて、俺なんてただのお遊びなんじゃないかって……。

『綺麗な絵ですね』

ふと高い声を思い出してしまう。その瞬間に涼しくなったはずの顔がまた熱をぶり返して、俺は驚く。手から筆が滑り落ちてしまった。

「クソ……」

最近絵を描いているとあいつを思い出してしまう。一年の東雲芽衣(しののめめい)だ。同じ美術コースでたまにここで顔を合わせる。東雲とは一年の入学式が終わった直後にこの美術室で出会った。その日からあいつはよく俺に話しかけてくる。

「先輩、この絵の色合い素敵です!」

「わぁ〜!やっぱり先輩の絵って綺麗!」

「一緒に描きませんか?」

いつもアホみたいに褒めてくる。褒められるのにはあまり慣れていない。美術コースの人間はみんな真剣に絵と付き合っているだけあって、自分の絵にも他人の絵にも厳しい奴が多い。そんな中で褒めまくるあいつは違う世界の人間に見えた。