七月。この国に本格的な夏が訪れた。外を少しだけ歩いただけで汗が噴き出し、制服の白いシャツに滲んでいく。暑い。でも、この足は真っ直ぐ美術室に向かっている。

美術室はエアコンがついているものの、誰も来ていないためついていなかった。ドアを開けるとムワリとした熱気が俺を襲う。また汗が吹き出してきた。

「暑……」

手の甲で額に浮かんだ汗を拭いながら、俺ーーー小鳥遊優(たかなしゆう)はエアコンのスイッチを押す。冷たい風にホッとした。火照った体が少しずつ冷えていく。

水筒を鞄の中から取り出して冷やしたお茶を飲んだ後、俺はキャンパスに向かった。イーゼルには描きかけの絵が置かれたままになっている。

今日は土曜日。美術コースの活動は当然ない。でも俺はどうしても絵を描きたくてここに来た。今描いているのは水彩画だ。少しでも上手くなれるよう、今日も筆を取る。

パレットに絵の具を出していく。情熱的な赤。幸せを表すと言われる青。草木の緑。何色にも染まる白。筆先につけ、紙に描く。