「ほんとにごめん。」


彼は、昔から人の顔色を伺う癖があった。だから、相手が喜ぶなら自分が嫌でも引き受けるような人間だ。そんな優しいが過ぎる彼はいつも周りに人が集まっていた。だけど、なんだか少し距離があるようにも見えた。
彼自身、そんな自分を変えたいと思っていたらしい。
しかし、癖というものは呪いのようで、中々治らない。
私と付き合っている間、好きだからこそ本心で接したいのにどこか顔色を伺ってしまう節があったそうだ。
それが原因で距離が出来るのを恐れた彼は1番大切だったものを手放してしまった。

耳元でゆっくりと彼が言葉を紡いでいく。
私を抱きしめる腕は微かに震えていた。
いつだって慰められてばかりだった私。でも今は私の番では無いのか。