思い出にするならきれいな方がいいなんて思ったけれど、結局、きれいなだけの思い出になんかならなかった。

 どうして私は、約束なんてしたんだろう。

 どうして私は、約束なんて守ったんだろう。

 ……そうだ、破ったってよかったんだ。

 私の方から、もっと、青磁くんに伝えればよかった。

 期限付きなんて嫌だって、青磁くんのことが本当にずっと好きだったって、約束なんて守れないって、もっといろんなことを教えてって──

 私がちゃんと、言えばよかったのに。

 私からちゃんと、青磁くんと手を繋げばよかった。


 青磁くんは、待ってたのかもしれない。

 青磁くんは、嘘なんてついてなかったのかもしれない。

 青磁くんは、本当に、私のことを好きでいてくれたのかもしれない。

 青磁くんは、優しいから。

 遠くへ行ってしまうのに、私を繋ぎ止めようとなんて、するわけがないんだ。


 だから私が、離しちゃいけなかったんだ。


 家の都合なら仕方ない、青磁くんは憧れの人だから仕方ない、それが現実だから仕方ない、そんな風に理解したふりして諦めて。

 私は結局、勇気がないだけだった。


 花火の合間に、風鈴がりんと揺れて涼しげな音を鳴らす。

 花火が弾けて消えるみたいに、私のこんな気持ちだっていつかは消えてなくなるのかもしれない。


 けれど風鈴のガラスに浮かんでとどまっている気泡は、ずっとあの日の空気を閉じ込めたままだ。

 ……私はきっとこれからも花火を見るたびに、彼のことを想うだろう。

 ──いつかぜんぶ思い出に変わっても、私の中の青磁くんは、ずっとずっと、消えないまま。






【おわり】