【主治医:クロイ・トワイライト】。



そう記録に書かれてある文字をそっと触れ、ぎゅうっと手を握りしめた。


握りしめた手からぽたぽたと血液が零れて、白い腕を伝い、色褪せていく。




救えた命だった。


俺にもっと技術があれば移植までできたはずだ。


それなのに、彼女はもう俺の手で救うことすらできない。



「……っ、はは」



渇いた笑いが漏れた。


デスクの上に置いてある、ニュクス大学病院から届いた返書は、いつまで経っても捨てることができずにそこにあるのだ。


【患者名:ユマ・オーウェン】、【手術後、死亡退院】という文字の連なりを見るだけで、己を殺していくのをひしひしと感じた。


医師として生きていく中で、彼女は忘れることができなかった患者であった。


いや、忘れることなど出来なかったのだ。


何故なら、俺が忘れてしまうことで、彼女に本当の死が訪れてしまうと……そう感じてしまったから。