【ヘメラ】の本拠地は、神殿と似て非なるものであった。


神聖な風貌と煌びやかな装飾は、まるで異国のお城のようであるのに、やけに冷たい印象を感じたのだ。



(なんでだろう、ちょっと怖いな…)



恐らく、天国で聞いた「殺人が横行している」という噂を鵜呑みにしているからだろう。


天使の羽根がありながらも私は、大理石の床をひたひたと歩き、【ヘメラ】の本拠地を探索した。


途中信者ともいえる人間とすれ違ったが、全員どこか遠い目をしていて、まるで死人のようであった。


死人はまさしく目の前にいるのに、まるで皮肉であった。



──天使の姿は、人間には見えない。



それでいて、天使は感覚機能を失っているため、幽霊のように透明な存在である。


人間にぶつかろうとこの身体はすり抜けてしまうため、前へ前へと進んでいく。


未だに人間界へと降り立った時のこの感じは、慣れない。


私のことを誰も認識してくれないのは、案外傷つくものだ。


天使になった癖に、感情の揺れが起こるのはどうも納得がいかないところだ。