「最近物騒よね、【ヘメラ】の本拠地が燃えたり」


「そうね~、誰の仕業かしら」


夜の繁華街は、噂の町だ。


煌びやかな衣装を纏った人たちが、ルージュを輝かせ、口々に真偽が分からないことを呟いていく。



「お姉さん、暇ならうちに来ない?」



軽いナンパのように、キャッチのお兄さんに話し掛けられるが、軽蔑の目を向けその場を去る。


声を掛けられると、嫌でも(ああ、私のことが見えるんだ)と気づかされて、虫酸が走りそうだ。


けど、そうさせたのは紛れもなく──私自身なのに。





──カルト集団・【ヘメラ】の噂は、私が住んでいた天国でも広まっていた。


なんでも人間の死への恐怖心を利用し、犯罪を犯し、人間の地を混乱に陥れていると。


【ヘメラ】では武器が流通し、殺人も行われる。


間違った神話の解釈で人間同士が争い、傷つけ合う。


最初は「人の信仰だから」と目を瞑っていた大天使様も、許すことができなかったのか、制裁を与えるべく動いていた。


その時の私は、関係ないとばかりにのんびり天国で過ごしていた。


今思えばそれが私の心の安らぎの、最期の瞬間だった。


これから先、私自身が迎える破滅に──……身構えるべきであったのかもしれない。