私の名前は「ユマ」。



けれどこの名前は死んだときに大天使様が授けてくださったもので、本当の名前は分からない。


私は既に死んでいるが、死んだ理由は分からないし、どんな人生を歩んでいたのかもすら分からない。


大天使様曰く、人間が死んで天使になるとき、人間の記憶は消されてしまうらしい。


だから、人間が天国に行くために……良い行いをする理由が分からないと、大天使様がそう溜め息を漏らしてきたのを思い出す。



(……けれどあの人は私のことを、「ユマ」と呼んでいたな)



モニターの電源が落ちて真っ暗になると、自分の姿が露になる。


天使の癖に象徴である真っ白な羽根もなければ、
かといって頭上で光輝く輪っかもない。


今の私はきっと誰が見ても、人間とそう答えるだろう。



──いや、正確には「人間となった」 だろう。



その証拠に天使の羽根があった場所は、じんわりと少し血が滲んで、痛みを生じていた。


しっかり重力に逆らうこともなく、地に脚がついている。


天使の輪っかを失った今、少しずつ身体が人間の世界に適応できていて、感覚が生前に戻りつつある。


しかし、今はこの感覚に私は──恐怖を覚えていた。