「扉の先は危ないかも、窓から逃げよう」



そっと天使様を手招きする。


窓の鍵を開き、部屋から逃げ出すと、そこには壮絶な光景が広がっていた。


天使様の、「ひぃ……!」と言う小さな悲鳴が、全てを物語っていた。




顔の無い真っ黒な人間が、幾つも横たわっていて、動かなくなっていたのだ。




肺は上下していない。


肌は溶けて、筋肉が剥き出しになっている箇所がある。




助からないのは、目に見えて分かっていた。




「………っ、クソ!」



段々と視界が灰色に染まっていき、肺に空気を入れないように、袖口で口を覆う。


煙は空を完全に覆い尽くしていて、きっと天使様でさえ、逃げ口を探しだすことは困難だろう。


俺は、ずっとここに閉じ込められてきたから、施設の構造を完全に把握している訳ではない。


外の世界だって、今は知らないに等しい。



だから、この黒煙の中を走って、走って、潜り抜けるしか無かったのだ。