「せんせ……いって、くるね」



弱々しく微笑むユマは、手術着に着替えられており、いよいよかと気が引き締まった。


心臓移植は、ドナーの手術と並行して行われるため、1日を掛けて行う。


手術室に搬入する頃にはもう、月が顔を出していた。



「大丈夫、絶対に成功するよ」


「うん、わたし、ぜったい……いきるから」



俺を不安にさせないように微笑む君の手を、そっと握る。


随分と冷たい君の手を、まるで氷を溶かすように温める。


君は俺に抱き締めて欲しいとお願いする。


ぎゅっと抱き締めたとき、俺の肩口で君は泣いていた。


俺に泣いている顔を見せずに、必死に堪える君が余りにも君らしくて、俺も泣いてしまいそうだった。



「また、せんせいに……あいたい」


「俺も、同じ気持ちだよ」


「ほんとに…? うれしい」



君はポケットからそっと便箋を出して、俺に手渡す。


君の瞳と同じ色の便箋であった。



「しゅじゅつの、ときに…よんで、おねがい」



その言葉を最後に、君の手は俺から離れ、手術室へと入っていった。