それは俺が後期研修医として入局し、ニュクス循環器科センターで働くことになった初日の出来事であった。


上級医と秘書から簡単な業務の伝達を受け、電子カルテに触れ、前任の医師から引き継いだ患者の情報収集を行う。


まあ、初日にしては出来た方だと思う。



(月と星だらけだな……)



夜の女神にちなんだ【ニュクス】と呼ばれる町では、至るところに夜空のモチーフがちりばめられている。


この病院では廊下に運河の絵画が展示されていたり、床に星の模様があったりと様々だ。


視覚的に飽きないのは美術館と同じであった。


しかし俺はさほど興味はなく、外来の至るところにある心臓の図を凝視する。


循環器科を専攻する俺の、第一のステップである。


今学べることは学んでおこうと必死になり、俺はこれからの業務に身を引き締めていた。




その時外来のドアが開いた。


余りに突然のことであり、首に掛けていた聴診器がずれ落ちていく。


思わず振り替えると、そこには……俺の思い描く人がそこにいた。


そう、彼女こそが──【ユマ・オーウェン】だ。