「でも、俺だけがお口をチャックしとおかなきゃいけないなんて……シャクだなぁ」



くいっと顎を上に向けられ、テーブルを挟んでお互いの視線がぶつかる。


クロイのアメジストの瞳は淀んでいて、私は彼の思惑が分からずさっと目をそらした。



「何を企んでいるんですか…?」



思わず、そう口から漏れてしまう。


クロイは私の反応を楽しむかのように、ぐっと顎先を掴んで、わざと顔を合わせようとする。



「だって俺、ユマさんの秘密を知らないから……アリアに隠す意義が分からないんだ」



───“だから、俺にユマさんのことを教えてよ”。



クロイにそう言われ、私は恐怖で、かひゅっと気道から音が鳴る。


交感神経が優位となり、私はドクドクと心臓の鼓動が早まるのを感じた。


循環が良くなり、冷や汗をかく私をクロイは愉しげに見つめている。



「俺には言えない?」



私は、この人を見くびっていたのかもしれない。


今、この場を支配しているのは紛れもなくクロイであり、私は彼には逆らえないと身体が怯えている。


大病院の、若き天才。


そう称されるのはきっと、彼の知識や技術が物を言うからだと、そう思っていた。