それは、やはり私が今まで一度も聞いたことのないような音色だった。
ウクレレに操られるかのように私は曲を奏でる。

お願いだから、どうかもう私を放っておいて下さい。自由に行きたい所へ行かせて下さい。
まるでリアンナの心の叫びを表しているかのような旋律に、全員が聞き惚れていた。

やがて、曲を弾き終えると……。

「うっうっうっ……何てことだ……こんなに心に響く曲がこの世にあるなんて……」

「そうだ、こんなに素晴らしい曲は世界中の人々に聞いてもらうべきだ。リアンナは狭い世界で生きるような娘ではないのだっ!」

驚くべきことに、兄と父が大粒の涙を流しているではないか。
この曲に効果があったのは兄と父だけなのだろう。
その場にいた全員が呆気に取られた様子で、ワンワン泣いている2人を見つめている。

「あの〜……リアンナ様。今の曲は確かに素晴らしかったですが、一体どういうことでしょうか?」

カインが小声で尋ねてくる。

「さ、さぁ……? 私にも何が何だか分からないけど……」

でも、効果があったのは確かだ。

「リアンナッ! もう我々はお前を連れ帰るような真似はしない! 何処へなりとも好きな場所へ行くが良い!」

「あぁ、そうだ! ついでに旅で金に困らないように、俺の通帳をお前にやろう! 好きなだけ使うがいい!」

兄は泣きながら、私に通帳を渡してきた。

「あ、ありがとうございます……?」

わけがわからないまま通帳を受取り、そっと中を開いて仰天した。
何この金額! 億単位の金額が入金されているじゃないの! これなら一生遊んで暮らしていけるかもしれない!

「一体どうなっているんだ?」
「さ、さぁ……?」

この状況に、ジャンもニーナも顔を見合わせて首を傾げている。

そしてついに見かねたのか、男たちが泣いている父と兄に声をかけた。

「あの、旦那様。本当にリアンナ様たちを行かせてもよろしいのですか?」

「何としても連れて帰ると仰られていましたよね?」

すると兄が泣きながら怒鳴り散らした。

「馬鹿野郎!! 妹が、こんなに自由に旅に出たいと言ってるんだぞ!」

「そうだ! それを貴様らは引き留めようとしてるのか! この悪魔め!」

父も男泣きしている。

「わ、分かりました!」
「なら、もう何もいいませんよ!」
「後で後悔しても知りませんからね」
「勝手にして下さい!」

男たちは諦めた様子でゾロゾロと部屋から出ていった。

「それでは、お父様とお兄様もお引き取り願えますか?」

私の言葉に、父と兄は笑顔で頷く。

「ああ、もちろん! 広い世界を見てこいよ! 俺達が港に行って出港停止を解除しておいてやろう」

「港の利権も本来は、我らが握っているからな。だから任せなさい。もう二度と会うことは無いと思うが、元気でな。リアンナ」

そして、明るい笑顔で2人は部屋を出て行ってくれた。

「ふぅ〜……ようやく全てが片付いたようね」

ため息をつくとニーナが駆け寄り、抱きついてきた。

「リアンナ様っ! よ、良かった……朝になって、お部屋に行ってみたら姿が見えなくて……本当に心配したんですよ!」

その声は涙声だった。

「ニーナ……心配かけてごめんね」

そっとニーナの髪を撫でると、今度はジャンがやってきた。

「カイン様の姿も無かったので、いやな予感がしたのです。それで2人で探しに行こうとしていたときに、突然旦那さまとベネディクト様が部屋に現れました。リアンナ様の居場所を教えろと言われたのですが、分らないと答えたら俺達は縛られてしまって……」

悔しそうに唇を噛むジャン。

「そうだったの……苦労かけてしまったわね」

「リアンナ様、そんなことよりも早く殿下が目覚める前にこの国を出ましょう」

カインが話しかけてきた。

「この国を……出る……」

その言葉に、少しだけ私の胸に寂しさが募ってくる。
ひょっとして、この気持ちはリアンナのものだろうか? 兄と父に別れを告げるのが寂しくて……?

でも、リアンナが自由に好きな場所に行きたいと願っているのも確かなのだ。

「そうね、すぐに旅の準備をはじめましょう!」

私は笑顔で返事をした――