「酷い追い出し方だって? 一体何を言っているんだ?」

父がカインを見て鼻で笑った。

「パーティーが行われたあの日、殿下の婚約者に選ばれずに傷心して帰宅したリアンナ様の頬を叩いて追い出しましたよね?」

カインはビシッと父を指さした。

「な、何だと!」

青ざめてのけぞる父の次に、カインは兄を指さした。

「それどころか、あなたはリアンナ様に毒を渡して自殺を促していましたよね!?」

「な、何故知っている!?」

兄も同じように青ざめてのけぞる。
う〜ん、さすがは親子。リアクションが似ている。

「何故知っている? 簡単なことです。木の上によじ登って、上から覗き見していたからですよ!」

覗き見していたことを臆することなく、堂々と口にするカイン。そしてその言葉にヒソヒソ話しをする見知らぬ男たち。

「何故リアンナ様を追い出しておきながら、今更追いかけてきたのです? しかも人質を取るなど、卑怯な真似をして。一体どういうつもりなのですか!」

カインが私の言いたいことを全部言ってくれている。お陰で? 私は、ただ黙って突っ立っているだけだった。

「何故、追いかけて来たかだと……? それは……!」

「お待ち下さい、父上。俺が代りに説明しましょう」

父を押しのけて、兄が一歩進み出てきた。

「我々マルケロフ侯爵家は、この国の流通業を全て受けている会社を経営しているのは知っているだろう?」

え? そんなの私は初耳ですけど?

「そのおかげで、町や村の噂話は全て、我々の耳に入ってくるようになっている。それらの情報によって、商売を手広く拡大できたりもしたわけだが。おっと、話が少しだけ横道にそれてしまったな。それでだ、リアンナを追い出してすぐに『聖女様』の噂話が入るようになったのだよ」

その場にいる誰もが、黙って話を聞いている。

「不思議な力で物を浮かせたり、元通りに復元する力、それに無から有を作り出す力など様々な奇跡の力を耳にした」

う〜ん……やはり、所詮噂話。随分話が誇張されているなぁ。

「そして、『聖女』と呼ばれている存在がリアンナだということが判明したのだ! だからその真意を確かめるべく、ここまで追いかけてきたというわけだ。幸い、お前たちが何処にいるかは判明してたし、しかも船も今は出港停止になっているからな」

「「「「え!?」」」」

私達は一斉に声を揃えていた。そんな……出港停止? 初耳なんですけど!

すると、父がニヤリと笑った。

「なんだ、お前たちは何も知らなかったのか? あの傲慢殿下がお前たちをこの国から逃さないように、港を封鎖して出港停止にしているのだぞ?」

「父上、黙っていて下さい。今、俺が喋っているのですから」

兄がピシャリと言う。

「な、何!? 少しは私にも話をさせろ!」

「年寄りは黙っていて下さい!」

「誰が年寄りだ! 私はまだ58歳だ!」

下らないことで揉める2人。

「どうして、このホテルに宿泊していることが分かったのです? 従業員達は客の情報を漏らさないはずですが?」

再びカインが質問する。

「そんなのは当然だ。我々マルケロフ家は流通業だけでなく、ホテル業も行っているからな! 貴族向けの高級ホテルは全て我々が経営していたのだ! どうだ!? 驚いただろう!」

アッハッハッと、声を揃えて笑う父と兄。ついでにボディガード? らしき男たち。

それは色々驚いているわよ。尤も一番の驚きは殿下が港を出港停止にしていたということだけど。

「さぁ、リアンナ! 今から家に帰るぞ!」

父が私に視線を向けた。

「はぁっ!?」

あまりにも突拍子もない言葉だ。

「駄目です! リアンナ様は僕と一緒にこれから新天地目指して旅に出るのですから! あなた方には絶対に渡すわけにはいきません!」

カインが私の肩を抱き寄せてきた。

「ええっ!?」

何、誤解されるようなことしてるの!?

「何言ってるんですか! 私達も当然一緒です!」

「カイン様ッ! リアンナ様に何するんですか!」

するとニーナとジャンが口々に抗議してきた。

「駄目だ! リアンナは家に連れて帰る!」

「そうだ! リアンナは商売の広告塔になってもらうのだからな!」

父が喚き、兄はとんでもないことを口にする。

父も兄も、なんて身勝手なのだろう。何故か分からないが、やるせない気持ちがこみ上げてくる。
この感情は……ひょっとすると、本物のリアンナのものだろうか?

「……もう……いい加減にしてっ!!」

気づけば、私は大声で叫んでいた――