『グラス』に到着したのは日が沈む頃だった。

休む間もなく俺は騎士を1人連れて港へ行くと、全ての船の出港停止を命じた。
責任者の男は出港停止に青ざめるも、王太子の俺に逆らうことなど出来るはずもなく命令に応じたのだった。

「よし、これで船はもう出港出来ない。他の者たちと合流しよう」

「はい、殿下」

指定しておいた集合場所の広場に行ってみると既に1人の騎士が待っており、興奮気味に駆け寄ってきた。

「あ! 殿下、お待ちしておりました! カインとリアンナ様が見つかりました!」

「何!? どこにいたのだ!?」

「はい、この町一番のホテルで発見しました。只今食事の真っ最中です」

この俺に追われているとも知らず、呑気に食事をしているとは……愚かな連中だ。

「なるほど……よし、そのホテルへ向かうぞ!」

「「はい!!」」

2人の騎士は大きく返事をした――


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 姿がバレないようにマントのフードをかぶると、ホテルに入った。中には大勢の客がいる。

「全く、いきなり出港停止とはどういうことなんだよ」

「困ったことになった。明日までに国に帰らなければいけないのに……」

「誰が船を出すことを禁止したんだよ。全くいい迷惑だ」

なるほど。混雑しているのは俺が出港停止を命じた為に足止めを食らった連中というわけか。
それにしても何と言う言い草だ。王太子である俺の決定に文句を言うとは……姿を隠していなければ、不敬罪で捕らえてやるのに。

「殿下、まだカイン達は食事をしています。食堂へ参りましょう」

「そうだな……どうやって捕らえるか……」

そこで、ふとある考えが浮かぶ。そうだ、あれを使えばいい。

「おい、お前」

もう一人の騎士に声をかけた。

「はい、殿下」

「カインとリアンナの部屋にワインを届けさせるようにホテルに命じろ。その際、必ずこれを10滴混ぜるように伝えるのだ」

胸ポケットから小さな小瓶を取り出した。中には薄い紫色の液体が入っている。
これは無味無臭の強力な睡眠薬だ。
カインにだって、バレることはないだろう。

「承知致しました」

小瓶を受け取ると、騎士はホテルのカウンターへと向かって行った。

「俺達は食堂へ向かうぞ」

残った騎士に声をかけると、食堂へ向かった――


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 食堂へ行くと、一際賑やかなテーブルがあった。

「全く……随分うるさい連中が……」

そこまで言いかけ、驚いた。
その騒がしいテーブルにはカインの姿があったのだ。カツラを被って髪の色こそ違うが、見間違うはずがない。
ずっと子供の頃から俺とカインは一緒にいたのだから。

と言うことは……あのテーブルにリアンナがいるのか。
テーブルには2人の女が座っており、1人はコチラに背を向けるように座っている。
1人は見覚えの無い女だった。
背を向けているのがリアンナに違いない。カイン同様に髪色が違うが、恐らくカツラを被っているのだろう。
その証拠にカインがやたらと、女の世話を焼いている。

「ついに見つけたぞ、リアンナ。カイン……」

俺は2人の様子をじっと見つめた――