あまり大人数で行動してはリアンナとカインにバレてしまう可能性がある。

そこで手練れの騎士5人を伴って、連中の後を追った。そして、立ち寄った町のいたるところで聖女の話を耳にした。

空中で自在に棒を操ったり、何も無かったはずの帽子から鳩やウサギを出す。破いたはずの紙を何事もなかったかのように元に戻す……等。

そのどれもが、リアンナを知る俺にとっては信じがたい話ばかりだったのだ――


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「まさか、魔法を使えるとは知らなかった……何故リアンナはそのことを黙っていたのだ? あれほど俺との婚姻を望んでいたくせに……」

『プレタ』の町を出た俺達は、最後の町『グラス』を目指して草原を駆けていた。

「殿下、それだけではありません。病人を治癒する力もあるそうではありませんか。もはや、完全に聖女の力を持っているに違いありません」

隣で馬に乗っている騎士が話しかけてきた。

「そうだな」

『プレタ』では聖女が魔法の力を人々の前で披露したという話は聞かなかった。
その代わり、立ち寄ったホテルでは貴重な話を聞くことが出来た。

腕が動かなくなってしまった男を、不思議な楽器を奏でて元通りに治したという。
最初は疑わしかったが、実際その男に会うと興奮気味に語っていた。

『はい、その通りです。聖女様は見たこともない楽器で明るい曲を演奏してくれました。それはとても素敵な曲で、気づけば手拍子を叩いていたんです。医者に見てもらっても治せなかった腕が治ったのですよ! 本当に美しくて優しい聖女様でした!』

「全く……あのリアンナが美しくて優しいだと? 同じ名前の女だったんじゃないか?」

王太子妃候補として、城に来ていた頃のリアンナは見るからに性格のきつそうな表情をしていた。周囲からの評判は悪く、俺に気に入られようと必死に縋り付いてくる様……それらを思い出すだけで気分が悪くなってくる。

「殿下、『グラス』まで、後10Km程です。到着いたしましたら、すぐに捜索を始めましょうか?」

別の騎士が尋ねてきた。

「いや、その前にまずは船着き場へ行く。全ての船の出向禁止令を出すのだ。乗船でもされてしまえば、後を追うのは困難だからな」

「はい、承知いたしました!」

「いいか? お前たち!! 何としてもリアンナとカインを逃がすな! 『グラス』に到着したら別れて行動だ! お前は俺と一緒に船の出港停止命令を出しに港へ行く! 残りの者たちはリアンナとカインを捜し出せ!」

「「「「「はい!」」」」」

リアンナたちの後を追っていて気づいたことがある。それは、随分のんびりと次の場所へ移動しているということだった。

恐らく、まだ『グラス』を発ってはいないだろう。

リアンナ。もしお前が本物の聖女なら、絶対に逃さないからな。
その不思議な力、俺のために使って貰うぞ。

「お前たち、急ぐぞ!!」

手綱を強く握りしめると、さらに馬を駆けさせる速度を上げた。


そして、ついに『グラス』でリアンナを発見することになる。

別人とも思えるほどに変貌したリアンナに――