それはガイを仲間の所に送り返した、2日後のことだった。

「殿下! 伝書鳩が戻ってまいりました!」

アンジェリカと話をしている所に、調教師が訪ねてきた。

「そうか! すぐに手紙を見せろ!」

「はい、殿下。こちらになります」

調教師は小さな筒を手渡してきた。

「ご苦労、戻って良いぞ」

「はい!」

調教師が出ていくと、アンジェリカが尋ねてきた。

「殿下、伝書鳩を飛ばしていたのですか? 何かあったのですか?」

俺は質問に答えずに、筒から手紙を取り出すと目を通し……衝撃を受けた。

「聖女」と呼ばれる人物が、リアンナであること。そしてカインが護衛をしており、後を追っていた騎士たちを返り討ちにしたと記されていたのだ。

「な、何だと……」

思わず手紙を持つ手が震える。

「殿下? どうしたのですか?」

「聖女がリアンナだと? しかもカインが護衛をしているとは、どういうことだ!!」

「え? 殿下! リアンナ様が聖女ってどういうことですか! カイン様はリアンナ様の護衛になったのですか?」

アンジェリカが腕を掴んできた。

「うるさい! 離せ!」

「キャァッ!」

乱暴に腕を振り払うと、大げさにアンジェリカがソファの上に倒れ込む。

「殿下! 酷いではありませんか! 一体何をなさるのです!?」

「うるさい! 黙れっ! お前の相手などしている余裕はない!」

怒鳴りつけると、ソファから立ち上がると声を張り上げた。

「誰か! 誰かいないか!」

すると、控えていた数人の騎士が駆けつけてきた。

「今すぐに出立するので準備をしろ! 早駆けの馬と、手練れの騎士を集めるんだ! これから国境へ向けて出発だ! リアンナが海を超える前に捕らえるぞ!!」

「はい! 殿下!」

騎士は敬礼すると、駆け足で執務室を出て行った。

「殿下! リアンナ様を捕らえるとはどいういうことですか? あの方はこの国を追い出されたのではありませんか!?」

アンジェリカが俺の腕を掴んできた。
そう言えば、この女がいることを忘れていた。だが、もう用済みだ。

「……出ていけ」

「え? 殿下。今、何と仰ったのですか?」

「出て行けと言っている! もうお前は用済みだ! 早く失せろ!」

「そんな……う、失せろだなんてあまりな言い方です! 私達はこれから結婚するのですよ?」

「結婚だと……?」

アンジェリカを見下ろした。夢から覚めたのだろうか? よくよく見れば、大した女では無かった。

「そうです! 時期王太子妃候補で、殿下は私を選ばれたではありませんか!」

涙目で訴えてくるが、何も感じることは無かった。

何故、俺はこの女を選んでしまったのだろう? 身分だってリアンナよりも低い女なのに。

「うるさい! お前との結婚は無しだ! とっとと出て行け! それとも無理矢理追い出されたいか!?」

「そんな……殿下、あんまりです!」

アンジェリカは泣きながら執務室を出て行った。……全くうるさい女だ。

「リアンナか……」

あの女が聖女と呼ばれているとは、とてもではないが信じられなかった。
こうなったら、俺が自ら確かめに行くしか無いだろう。

絶対に逃がすものか。もし、聖女と呼ばれているのがデマで自ら吹聴してまわっているのであれば……。

「そのときは……タダではすまさないからな……」

両手の拳を強く握りしめた――