青空の下で、地平線の彼方まで真っ直ぐ伸びた馬車道を進む荷馬車。
時折すれ違う馬車に挨拶を交わしながらの旅は続く。

「のどかな旅っていいわよね〜」

膝の上にうさぎを乗せて、背中を撫でていると、カインが声をかけてきた。

「リアンナ様。この先に小川が流れています。少し、ここで馬を休めていきませんか?」

「え? 小川が流れているの? いいわね、休憩しましょう!」

すると、御者台のジャンが不服そうに口を尖らせる。

「あ! 俺が先に言おうと思っていたのに!」

するとニーナが注意した。

「誰が先に言おうと関係ないじゃない。でもリアンナ様。川を見るのはこの旅で初めてですよね」

「そうね。湖の側なら通ったことがあるけれど。どんな川なのかな〜早く行ってみましょう」

「そうですね、少し急ぎましょうか」

私の言葉に、ジャンは手綱を握りしめて速度を上げた――


****


到着した川は周囲を木立に囲まれた、美しい場所だった。

川幅は多分1m位で、何処までも真っ直ぐ地平線に向かって伸びている。川の流れはそれほど速くなく、水底も見えるので深くはない。水の透明度は高く、小魚が泳いでいる姿が見えた。

「うわ〜素敵! なんて綺麗な場所なの!」

日本の都会で暮らしていた私にとっては、まさに奇跡的な景色だった。

「リアンナ様、川の水が冷たくて気持ちいいですよ」

川の水を桶に汲んで水を飲ませていたジャンが声をかけてきた。カインは少し離れた場所で愛馬のスカイに草を食べさせている。

「本当?」

川に近づいていくと、ニーナもついてきた。

「私も水に触ってみたいです」

「そうね、一緒に水に触ってみましょう」

2人で一緒にしゃがんで川の水にそっと触れてみる。水は冷たく、そしてとても気持ちが良かった。

「キャッ! 冷たい! でも、気持ちいいですね」

「そうね、とっても気持ちいいわね」

水に触れていると、どうしてもアレをやってみたくなった。
立ち上がると、しゃがんでいたニーナが首を傾げる。

「リアンナ様、どうされたのですか?」

「うん、川に入ってみたくて」

「ええっ!? 本気ですか!?」

驚くニーナの前で靴を脱いで、長いスカートをたくし上げた時。

「リ、リアンナ様っ! 一体何をなさるつもりですか!?」

突然背後から驚きの声が聞こえ、カインがこちらに駆け寄ってくる姿が見えた。

「あ、カイン」

スカートをたくし上げたまま、その場にいるとカインが眼の前までやってきた。

「リアンナ様! 貴族の御令嬢なのですから、あ、あまり人前で足を見せるようなことは……そ、その……おやめになったほうが良いですよ」

カインは赤い顔で視線をそらせている。

「そうかな? 別にコレくらい、どうってこと無いけど」

「どうってことありますよ!」

ジャンは私に背中を向けて訴える。

「ええ〜。いいじゃない、別に堅苦しいこと言わなくたって。だって、もう私は追放されて貴族じゃないし」

「リアンナ様……」

カインの顔が曇る。あ、何だかまずいことを口にしてしまったかもしれない。

「まぁいいから、いいから」

私はスカートをたくし上げたまま、ジャブジャブと川の中へ入っていった。

「「「あ!!!」」」

「つ、つめた〜い! でも、気持ちいいわよ! ねぇ、皆も一緒に川に入りましょうよ!」

笑顔で川の中から3人に声をかけた。

「「「……」」」

3人は少しの間、互いの顔を見合わせ……。

「「「はい!!!」」」


その後全員で冷たい川に入って、ちょっとした水遊びをした――