「え!? リアンナ様! 一体どうなさったのですか!」

「何、勝手にリアンナ様を抱き上げているんですか!? さっさと離れて下さいよ!」

私がカインに抱きかかえられたまま、宿屋に戻ると当然の如く、2人は驚いた。
とくにジャンは今にもカインに食って掛かりそうな勢いだ。

「ちょ、ちょっと! 2人とも、落ち着いて! カイン、もう大丈夫よ。部屋に着いたのだから下ろしてくれる?」

カインは未だに私を抱きかかえたままでいる。

「分かりました」

素直に返事をすると、カインは私を椅子に下ろしてくれた。

「一体どういうことなんです? カイン様」

ジャンは何故か私にではなく、カインに詰め寄る。

「実は町でちょっとしたトラブルに巻き込まれて、驚いたリアンナ様が腰を抜かして歩けなくなってしまったんだよ。だから抱きかかえて宿屋までお連れしただけだよ」

スラスラと説明するカイン。
だけど、ちょっとしたトラブルって……そんな簡単なトラブルじゃ無かった気がするけど。

「ちょっとしたトラブルって、一体どんなトラブルだったのですか?」

案の定、ニーナが質問してきた。

「実は、殿下の騎士が……私達を追ってきていたの」

私が答えると、ジャンが怒りを露わにした。

「何ですって!? カイン様! やっぱり殿下に連絡を入れていたのですね!」

「違うってば! 落ち着いてジャン! カインが殿下に連絡を入れていなかったから、他の騎士たちが追いかけてきていたのよ。それをカインが返り討ちにして……」

「それって、でも結局カイン様が原因てことですよね?」

ニーナがため息をつく。

「う……そ、それは……」

確かにカインが原因ということになるかもしれない。けれど、元の発端はリアンナが発端ではないだろうか?

「でもそれだけではありません。どうやら彼らは聖女様を探しているようです」

カインの言葉に、一斉に私に視線が向けられる。

「聖女様って……」
「当然……」

「アハハハ……た、多分私のこと……よね?」

「「「そうですね」」」

3人が一斉に声を揃えて頷く。

「だけど、私が聖女様って呼ばれていることは追手の騎士たちは知らなかったみたいだけど?」

「確かにその通りですが……バレるのは時間の問題かもしれません」

カインが神妙そうな表情を浮かべる。

「それなら、この国を出るまではマジックをしなければいいのではありませんか?」

ニーナが手を上げて意見を述べる。

「なるほど! それは良い考えだ! さすがは俺の妹!」

ジャンがパチンと指を鳴らす。

「私が姉でしょう!? どうでしょう? リアンナ様。暫くマジックはお預けということにしませんか?」

「う〜ん……その通りではあるけれど、そうなるとお金が……」

「「あ……」」

私の言葉に、ジャンとニーナの顔が曇る。
元々、マジックをしているのはお金を稼ぐためなのだ。資金が底をついてしまえば、生活できなくなってしまう。

「お金の心配なら大丈夫です。僕が皆さんを養わせて下さい」

そこへカインが笑顔で手を上げた。

「え!? そ、それは駄目よ! 護衛までしてもらっているのに、養ってもらうなんて真似出来ないわ!」

慌てて私は首を振る。

「それなら、こういうのはどうでしょう? 僕が無利息でお金を貸す。そしていずれ皆さんがお金を返せるようになったときに返してもらうというのは?」

「だけど、カインとはこの国を出るまでの関係でしょう? お金を借りても返せないわ」

「その心配なら無用です。リアンナ様たちがお金を返せるあてが出来るまで旅に同行させて頂くことにしますから」

「「「ええっ!?」」」

カインの言葉に私達が声を揃えて驚いたのは……言うまでも無かった――