――22時半

私達3人は町の宿屋にいた。

「良かったですね、リアンナ様。今夜の宿が見つかって」

部屋に入ってようやく人心地が着いたのか、ニーナが笑顔で話しかけてきた。

「そうね。屋敷を追い出された時はどうなるかと思ったけど」

シャワーを浴びてすっきりした私はナイトウェア姿でベッドにゴロリと大の字に寝転がった。

「でも、本当によろしかったのですか? こんな小さな寂れた部屋に宿泊するなんて……私やジャンは構いませんが、リアンナ様には耐えられないのではありませんか?」

心配そうな様子で尋ねてくるニーナ。
ニーナにしてみれば、この部屋は狭く感じるのかもしれない。けれどOLだった私っは出張で何度もビジネスホテルを利用してきた経験がある。
あの時の部屋よりは、今宿泊している宿は2倍以上の広さがある。
何しろベッドを2台置いても、まだ十分すぎるスペースがあるのだ。

「そんなこと無いけど? 私はこの部屋で十分よ。大体シャワールームが部屋に備え付けてあるだけ凄いわよ」

この世界は文明が遅れていると思ってただけに、まさか温かいシャワーを浴びることができるとは思っていなかった。
存外、私が思っている以上にこの世界は文明が発達しているのかもしれない。

「そうでしょうか? でも、リアンナ様がそれで宜しいのであれば私からは何ももう言いませんが……」

「そんなことよりも、ニーナ。あなたもシャワーを浴びてきたら? 今日は色々会って疲れたでしょう?」

ベッドに寝転がったまま、ニーナに声をかけた。

「そうですね、ではお言葉に甘えてシャワーを浴びてまいります」

「うん、行ってらっしゃい」

ニーナがいそいそと着替えを持って、シャワールームへ行く気配を感じながら私は目を閉じた。

はぁ……今夜は色々あって疲れたな……。

そんなことを思いながら、いつしか私は眠りについていた――


****


――翌朝


眩しい光が顔を直撃している。

「う〜ん……眩しい……」

ごろりと太陽に背を向けた時、一気に目が覚めた。

「た、大変! 今日は大事な日なのに寝坊した!?」

ガバッと飛び起き、隣りのベッドで気持ちよさそうに眠っているリーナの姿を見て我に返る。

「あ……やっぱり、夢じゃなかったんだ……」

思わず深い溜め息をつき、ここが自分の知る世界ではないということを改めて思い知らされた。
何気なく部屋の時計をみてみれば、まだ6時少し前だった。

「全く……トラックに撥ねられて死んだかと思えば、こんなわけも分からない世界に転生しているなんて……」

しかも、リアンナという女性は世間からも家族からも嫌われている。

「本当なら、今日は大事な日だったのに……私がいなくなって、皆は大丈夫なのかな……」

いや、そもそも私が死んでしまったことで大事な予定も中止になってしまった可能性のほうが高い。

「皆で、あんなに沢山練習したのに……」

けれどこの世界に転生してしまった私には、もうどうすることも出来ない。
それよりも今は、私のことを心配してついてきてくれたニーナとジャンの為にも今後のことを考えなければ。

何しろ私のせいで、二人は住む場所と仕事を同時に失ってしまったのだから。

「二人の面倒を見ると決めたんだから、こうしてはいられないわね」

私は早速ベッドから起き上がると着替えを済ませると、ある準備をはじめた――