19時半――

「うわぁ〜……今日は大きな満月ねぇ」

会社を出た私は何気なく空を見上げて、思わず口に出してしまった。
高層ビルの合間から見える満月はいつも以上に大きく感じる。

「そう言えば、今夜はスーパームーンを見ることが出来るって、朝の情報番組で言ってたっけ」

そのとき、スマホの着信音が鳴り響いた。

「ん? 誰だろう?」

バッグからスマホを取り出し、タップするとサークル仲間の莉子《りこ》だった。

「もしもし、莉子?」

『あ、陽葵《ひまり》? 今電話大丈夫?』

「うん、会社出たところだから大丈夫だよ」

莉子は私と同じサークルに所属し、年齢も同じ25歳で何かと気のあう友人だった。

『いよいよ、明日本番ね? 準備は万端?』

「勿論、ばっちりよ! 今までどれだけ準備してきたと思ってるの? そういう莉子こそ、大丈夫なの?」

『もちろん! 明日は絶対成功させようね?』

「当然よ。ところで明日の待ち合わせ場所だけど……」

電話をしながら、横断歩道を歩いてると突然脇から大きな光で照らされた。

「え?」

振り向くと、大型トラックがこちらに向かって突っ込んでくる様子が目に飛び込んできた。

眩しい!

そう思った次の瞬間――

ドンッ!!

全身に激しい衝撃をうけ、気づけば宙を飛んでいた。
眼前には大きなスーパームーンが見える。

なんて……綺麗な月なのだろう……。

ドサッ!!

地面に叩きつけられたときには、もはや痛みは感じなかった。

地面に横たわる私に、大勢の人たちが駆け寄ってくる姿が見え……私の視界は完全に真っ暗になった。


あぁ……私……死んじゃうのかな……?
あんなに……念入りに準備してきた……の……に……。


そして私の意識は完全に途絶えた――