「とうとう到着しましたね」

 これまでの道中、きめ細かく世話をしてくれていた付き人のダニエラが、降車の準備に取りかかり始めた。
 ダニエラが扉を開けてくれるのを待っている間、静かに座っていたマルティーナは自分の心拍数が上がっていることに気がついた。
 緊張しているのだ。

(いよいよなんだわ)

 深く息を吸い、それから細くゆっくりと吐いた。

 高地にあるルーボンヌ神国を出発したときには雪が舞っていたから、ぶ厚い外套を羽織って出た。
 けれど、アンダルイドに近づくにつれ気温が上がったため、途中で脱いでいた。
 おそらく今後マルティーナには無用の長物になる。

(ルーボンヌに持ち帰ってもらおう。実家でも不要なら、処分してくれればいい)

 外套をたたみ直して座席に置いた。
 それからしばらく、その上に手を乗せた。

(外套だけじゃない。ルーボンヌに対する未練も、ここに置いていこう)