マルティーナの通っていた神学校では考えられないことだったのだ。
 神学校では、常に誰に対しても一定の礼儀が求められた。
 マルティーナが特別距離を取られていたこととは関係なく、たとえ親しい学生同士であってもそうだった。

「俺、そんな危ないやつじゃないからね? マルティーナさん、聞いてる?」
「えっ、ええ。もちろん聞いてるわ」
「そうだよね。ウーゴは危ないとかじゃなくて、気づいたら懐柔されてるっていうか、要するに人たらしだもんね」
「だーかーらー、何か語弊がある言い方はやめてくれよ。入学早々、変な誤解が広まったらどうしてくれるんだよ? ほら、なんか俺白い目で見られてない?」
「見られてるのは、ウーゴの声がデカいからでしょ」

 ふたりは言い合いしながらも、なお笑顔だった。

(私もこの関係に入っていける?)

 胸がドキドキしていた。

(もしそうなら、最高なんだけど……)

 新たな環境で真の友人を作る──
 それもまた、留学の目的のひとつであった。