途端に黙り込み、涙目になる詩。


それを見て、綾人が慌て出す。


「ごめん。嫌だったか」


「…違う」


「どうした」


「私は綾人には相応しくない。結婚はできないよ」



綾人の目をしっかりと見つめ、詩が話しだす。


「私はもうすぐいなくなるんだよ…もしかしたら、明日かもしれない。死んだ後も、妻を亡くした夫として、縛りつけるなんてしたくない」


そう言って、固く拳を握りながら、詩が話す。



「そんなことはどうでもいい。詩に奥さんになってほしいから言ってるんだ」


「きっと、一時的に私に同情してるたけだよ。 綾人にはこれから先、もっといい人に出会うはず。こんな体の私なんて─」


言い終わらないうちに、綾人が詩の手を掴む。


「もっといい人とか、言うな。詩のたった1人の夫に、俺がなりたいんだ。もし俺が夫として相応しくないならそう言ってくれ。でもそうじゃないなら、結婚してほしい」


綾人が大きな瞳で詩を見つめる。


自分の本心を真っ直ぐに伝えてくれているのがわかり、詩の心が揺らぐ。


「綾人…本気なの?」


「本気だ。ずっと計画していたことだ」


「綾人…」


涙で詩の視界が歪んだ。


「…綾人、ありがとう」


指輪を受け取る詩。


「…じゃあ…」


「よろしくお願いします」


2人とも、涙を流しながら、お互いを見つめて笑い合う。


綾人が詩を優しく抱きしめ、キスをする。


息が切れやすくなっている詩を気遣い、とても短いキス。

でも、自分を心から愛してくれていることが詩には伝わった。



死を受け入れたはずなのに、綾人を置いていかないといけないことが、とても悔しかった。