目の前に広がるコバルトブルーの海。


綾人と詩は、2人で旅に出ていた。


詩からの最期の願いのひとつが、「2人で旅行して、ゆっくり海を見たい」というものだった。


出発の日、少し発熱があったため綾人は心配していたが、延期できるだけの時間は、詩には残されていなかった。

酸素を吸入しながらも、人生初の飛行機に乗ることができ、2人で離島に来ることができた。


2人きりのコテージで、海を見ながらゆったりと過ごす。

ベッドで横になって綾人に膝枕をしてもらいながら、夕日が水平線に沈んでいくのを見る。

これまで食欲がない日が続いていたが、部屋に運んでもらった、新鮮な食材を使った作りたての料理たちは信じられないほど美味しく、ほとんど完食できた。

綾人が消化に優しいものをリクエストしてくれていたので、食べた後も気持ち悪くならなかった。


幸せすぎて、自分が残り少ない命だということを一瞬忘れそうになる。


しかし、時折襲ってくる胸の痛みと貧血からの眩暈に、現実に引き戻されていた。



次の夜。


今日も美味しい夕食を食べた後に、綾人が詩に小さい小箱を渡した。


「これ…指輪?」

詩が戸惑っていると、綾人が指輪を左手の薬指につける。


「詩、結婚してください」



綾人が詩の目をまっすぐに見て、そう告げた。