まだ薄暗い、早朝の無菌室。

詩の様子を見に来た綾人は、青白い顔で横たわったままの詩の姿を見て、胸が苦しくなった。


─意識を取り戻さないまま、詩は逝ってしまうのだろうか。


「…おはよう、詩」


モニターを確認する。


弱ってしまった心臓は、時折不規則なリズムを刻みながらも、なんとか動いてくれている。


「よし、また様子を見に来るからな」


病室を去る前に、冷たい手を握る。


「ん?」


詩の手が、少し動いたような気がした。


「詩?」


やはり、手を握り返そうとしてきている。



「詩、わかるか!」



肩を叩く綾人。



詩が、うっすらと瞼を開ける。


「詩…!」


意識がしっかりとしてきたのを見て、綾人が人工呼吸器の管を外し、酸素マスクに付け替える。


詩が目を覚ましたのを見て、思わず、泣いてしまう綾人。


「綾人…泣かないで…ごめんなさい」


「ごめん…でも…目を覚ましてくれて嬉しくて…」



綾人は、詩が心臓の発作を起こし倒れたが、すぐに処置をして助かったこと。
そして、心機能がかなり落ちていることを伝える。


「…ごめんなさい…また心配かけちゃったね」


綾人の気持ちを想像し、詩も涙ぐんでいた。


息切れしつつも、詩は一生懸命笑顔で話を続ける。


「でも私、頑張るから。次は心臓の治療…?手術とか?どんな治療でも頑張るから、心配しないで」


「…」


黙り込む綾人。


「…綾人?」


残酷な言葉を伝えなければならない時がきていた。