懸命な救命措置のおかげで、やっと詩の心臓は動き始めた。


しかし、意識は戻らず、人工呼吸器で空気が送り込まれる度に胸が上下する以外、微動だにしない。



その横で、厳しい表情をした綾人と、陸がいた。



エコー検査をする陸が、とても言いにくそうにしながら綾人に告げる。



「これは…綾人、落ち着いて効いてくれ。心機能が急激に落ちている。今回は奇跡的に蘇生できたが…予後はかなり厳しい」


「蘇生に時間がかかったのもあるし、このまま、ということも充分にありうる。」



詩の体では、抗がん剤治療や移植を受けることは、もうできない。


治療を続けられないということは、詩の病状では、命を諦めるということになる。



病気が分かった時、詩が命を落とす可能性があることはもちろん理解してはいた。


しかし、こんなにも早く、その時が来てしまうとは。


この心臓の状態と血液検査の結果だと、長くとも数週間の命だろうということは、医師として頭では理解できる。


ただ、幼馴染として、恋人として、心が追いつかない。



詩がこの世からいなくなるなんて。


詩にはどう伝えればいいだろうか…?



極度の疲れとショックで、綾人は、足の力が抜け地面に座り込んだ。



「綾人!大丈夫か!」


「悪い…大丈夫だ…」


目眩がする頭を片手で押さえながら、立ち上がろうとする綾人。


「すごい顔色だぞ、ちょっと休んどけ!」


「休んでる暇なんてない…まだ何があるか…」



そう言って起き上がろうとする綾人の肩を、陸が掴む。


「長月さんが意識を取り戻した時、お前が倒れてしまってたらどうする!一旦休め!」


「…そうだな…悪い…」


いつも超人のような仕事ぶりの綾人の弱りきった姿に驚く看護師たち。



空いている処置室のベッドで横になり点滴を受けている間に、綾人は眠りについていた。