「長月さん!頑張れ!家に帰るんだろ!」


必死の呼びかけもむなしく、詩はだらりと腕を垂らしたまま圧迫に合わせて揺れるのみで、蘇生の兆候が見られない。


痛々しい詩の姿に、油断すると涙が出そうになる綾人。

だが、立ち止まってはいられなかった。



20分が経過した。


必死に詩の胸を押し続ける綾人。


心電図の波形は心臓マッサージをされている時だけ波打っていた。


血管が傷つきやすくなっているせいで、拭いても拭いても出てきてしまう鼻血。

繰り返される除細動器のせいで、白い胸にできた火傷。


もう見ないで、と言っているように思える。



詩のか細い肋骨が折れるのもわかる。



しかし、そんなことを気にしている場合ではなかった。



時間だけが虚しく過ぎていく処置室。


「…先生…もう20分が経過しています…」


萌音が綾人に告げるが、綾人は手を止めようとしない。


詩の小さな体へのつらい処置に、直視できないスタッフもでてきた。



綾人の思いが痛いほど伝わる中、陸が声を振り絞る。


「…綾人…。これ以上は、もう…」


心臓マッサージを繰り返す手を止めようとする陸を、振り払う綾人。



「…まだ蘇生できる!除細動!270Jでチャージ!」


「…チャージできました!」


「離れて!」


ベッドに叩きつけられる詩の体。

皆が祈るような気持ちで心電図を見つめる。



しかし、反応がない。




「…もう一回!チャージ!」


「チャージできました!」


「離れて!」


ドンッ



…ピッピッピッピッ



心電図に、規則正しい波形が表示される。



「戻った…」