しかし、そんな詩の頑張りもむなしく、治療を再開して2週間後には、急に息切れまで出てくるようになった。


─横になっているだけなのに、空気が薄くなっているような感じがする…


検査をしたところ、今回の抗がん剤の副作用で、心臓にも負担をかけてしまっていることがわかった。


綾人と高校の頃からの同期で、循環器内科の佐々木 陸(ささき りく)も、詩の治療にあたることになった。



「長月さん。しんどかったね。これからは常に酸素吸入をするようにするのと、薬を使っていって、少し胸が楽になるようにしようね」


綾人が他の患者の回診をしている間、治療内容を説明に来た陸が、優しく詩に伝える。



「心臓まで悪くなっちゃったのかぁ…でも、良くなるように頑張ります」


泣きたい気持ちになりながらも、笑顔で受け答えする詩。



─つらいだろうに…綾人から聞いた通り、本当にいい子で頑張り屋だな。


詩のことを初めて見た時は小学生ぐらいかと思うほど幼く見えたが、考えがしっかりと大人びているところに、長い闘病の日々が垣間見えた。



「しんどい時は、綾人にたくさん甘えていいからね」


「綾人も忙しいから…私のことで、これ以上負担をかけたくなくて」


苦笑いしながら、詩が答える。


綾人と詩が昔からの幼馴染で、今は恋人同士という関係を知っている陸。


詩も、本音を話すことができる。



「長月さんは、優しいね」


「優しくなんかないです…綾人には、小さい頃から迷惑ばかりかけてるから、なるべく安心させてあげたいんですが…でも、心臓までこんな状態になっちゃって、また綾人に心配かけちゃうな」


悲しそうに、俯きながら話す詩。


「大事な人のことは、迷惑だなんて思わないよ。綾人には、もっと頼って本音を話しても大丈夫」


「ありがとうございます」


少しほっとする詩。

そして、綾人のよき理解者が近くにいることが、本当に嬉しかった。


「…先生、もし私に何かあった時、綾人をよろしくお願いします。きっと、自分を責めちゃう人だと思うから」


「"何かあったら"なんて、そんなこと言わないで。でも、綾人のことは、友人代表としてこれからも支えていくから安心して」


「本当に、仲良いんですね」


笑い合う2人だった。