スポーツテストを終え、由羅とともに教室に帰る詩。

3階の教室まで、階段を登る。

「由羅と颯太くん、50m走、今年も学年トップだったね。本当にすごいよ」

「ありがと!これでも短距離走の全国大会出場者だからね、私」


談笑しながら階段を登っていると、詩が歩みを止める。

一瞬目の前が暗くなって立ちくらみがしたのだ。


「詩、大丈夫? 」

「…うん、大丈夫。ずっと座ってたのに急に動いたせいか、目眩がしたみたい」

「顔色ちょっと悪いよ?あとはホームルームだけだから、もう帰ったら?」

「ありがとう、由羅。でも大丈夫だから、最後まで出席する。ただでさえ欠席日数が多いのに、ここまできて早退扱いになりたくないし…」


幼少期から、この体のせいでいつもみんなに心配をかけ続けていることを、詩はいつも申し訳なく思っていた。


詩の母は、シングルマザーで、医師だった。

長年2人で暮らしていた母親の恵美は、昨年白血病で亡くなってしまった。

恵美は、亡くなる直前まで詩のことを心配していた。


本当は心の中は寂しさと不安がいっぱいだった。

だが、天国から見てくれている母親に心配をかけないよう、多少の無理をしながらも、一人暮らしと高校生活の両立を頑張っている詩だった。