詩が病院に運ばれて3時間後。


救急処置室の固いベッドの上で、詩がゆっくりと瞼を開ける。


頭と喉の鈍い痛みと、体のだるさが襲う。


少し息苦しい。


苦手な酸素マスクもつけられていて、喉が渇いて痛い。



─ここは…また病院か…


私、たしか、熱と咳が出て…倒れたんだっけ…



遠くから、複数の医師と話す綾人の声が、かすかに聞こえてくる。



「…発熱していたので連れてきましたが、やはり再発しています」


「好中球もかなり低いな。厳しい状況だ。早急に無菌室に入ってもらって、輸血もしながら抗がん剤治療を再開した方がいいな」




かすかに聞こえる、恐ろしい単語の数々


綾人の沈んだ声。


─私のことを話してるんだよね。


もう再発しちゃったの…?


あんなにつらい治療も、移植も、意味がなかったんだ…



カーテンの向こうから、こちらに近づいてくる足音がする。


話を聞いていたことに気づかれないよう、寝たふりをしてしまう詩。


綾人がベッドに近づき、詩の手を握る。


「詩…ごめんな…」


─いつもと声が違う。


…泣いてたの?


私は、綾人を悲しませてばかりだね…