「俺は仕事の日は帰りも遅いし、当直勤務もある。俺には気を遣わず、自分の飯の用意だけ自分でしてくれたらいい。家事も俺がするから置いておいてくれ」

「そんな、住ませてもらってるのに甘えてばかりはいられないよ」


戸惑いながら答える詩。


「お前は自分の体調管理のことだけ考えてくれ。高校も卒業したいんだろ。それなら絶対に無理するな。少しでも体調が悪ければ俺にすぐ言え」


「わかりました…」


「隠し事は絶対に無しだからな」


「わかってるってば」


「あと、処方した薬は忘れずに毎日飲むこと。薬の減り具合で、服薬をサボってないかはすぐにバレるからな」


「はい…」


始終威圧感を出しっぱなしで話す綾人に、詩は病院よりも窮屈な毎日になるかもしれないと思った。


でも…そもそもこの弱い体が悪いから仕方がない。


綾人を安心させられたら、一人暮らしに戻れるんかもしれない。


綾人だって、ずっと私と一緒に住んでいるわけにもいかないだろう。


今は綾人の言うことをきちんと聞いて、しっかり自立できている姿を見せなきゃ、と思う詩だった。


「じゃあ、今日はもう休んでろ。疲れただろ」


「はーい」


リビングから自分の部屋に移ろうとした時、詩が何かを思い出し立ち止まる。


「あ、綾人」


「なんだ?」


ふいに、綾人に抱きつく詩。


温かい。無機質なガウン越しではない、体温を感じる。


「やっと、綾人に直接触れられた。嬉しい」


涙が滲んでいる。


「詩…俺もだ。よく頑張ったな」


「綾人のおかげだよ」


抱き合って見つめ合い、キスする2人。


恥ずかしさから、すぐに詩の顔が赤くなる。



「大好きだよ」


「俺も大好きだ…だからお願いがある。これ以上無理する前に、横になろうな」

「…はぁい」


軽々と抱えられ、ベッドまで連れて行かれる詩。


内心は詩とのキスで理性を失いそうになっていた綾人だったが、すぐに医師としての責任感が心を引き戻した。


「おやすみ、詩」


「ありがとう。おやすみ綾人」



しばらく頭を撫でていると、すぐに眠る詩。


痩せてしまったが、顔色はずいぶん良くなった。



どうか、このまま再発せずに穏やかな毎日が続きますように。


寝顔を見ながら、祈る綾人だった。