「詩、次俺たち50m走だから、しっかり起きて見てろよ!」

クラスメイトでバスケットボール部の立石 颯太(たていし そうた)が、詩に近づき話しかける。


「起きてるよ!颯太くんも頑張ってね」


颯太はいつも冗談ばかり言ってくるが、いつも詩の体調のことを気にしてくれる、優しいクラスメイトだ。



グラウンドでは、男子の前に女子が50m走をしている。


1人の背の高い美少女が、50mを7.1秒で走り抜け、歓声が上がった。


陸上部に所属している、中学生の頃からの親友の大崎 由羅(おおさき ゆら)だ。


美人でスラリとしていて、勉強もできるのに嫌味なところがなく、サバサバとした性格の彼女のファンは、男女問わず多い。


同性の詩から見ても、由羅はとてもかっこいい、憧れの女の子だ。


そんな由羅が、上がった息を整えながら詩に近づく。


「詩〜!見てた?」


「見てたよ!由羅、ほんとにかっこよかった!」


「えへへ、ありがと!てか今日風強いね。そんな所で座ってて寒くない?」


「ありがとう、ちょっと寒いけど大丈夫だよ。」


そう答えながら、少し咳払いをする詩。



「しんどくなったらちゃんと言うんだよ!あ、男子始まってる」


由羅もベンチに腰掛ける。


2人で男子の50m走を見ていると、颯太が6.3秒で走り終えた。


他のクラスの颯太のファンの女の子達が見にきてキャーキャー騒いでいるのが聞こえる。


「うわー、今年も颯太くん早いね。」


「颯太のやつ毎年早くなってく…今年も負けたわ。」


そう言いながら颯太を見つめる由羅の目はキラキラ輝き、耳は少し赤くなっていた。


「…後で、颯太くんにかっこよかったよって言ってあげるんだよ、由羅」


「なんで!?」


恋愛に疎い詩にでも、由羅の颯太への気持ちはわかる。


顔を真っ赤にする由羅のことを、心底可愛いと詩は思った。