─眩しい光を感じる。

いろんな音、匂い。体の痛み。


いろんな器具をつけられている不快感。


急に胸に冷たい物が当たった感触がする。



意識を失ってから1週間が経過した日の朝。

詩はすぐにでもまた寝てしまいたいほどのだるさを感じつつも、状況を確認するため必死に目を開ける。


無菌室のカーテンが見える。


誰かが近くにいる。


ガウンを着ててもわかる、愛しい人の姿。


綾人だ。


詩の胸の聴診をしている綾人が見える。


マスクもしていて、目しか見えていないのに、以前にも増して厳しい表情なのがわかる。



そして、なんだか綾人、疲れてるみたい…


あれ、そういえば私、いつから寝てたっけ。



「………あや…と…」


「……!」


詩がかすれた声で呼びかけると、綾人が瞬時に詩の顔を見る。


「詩…!」


詩と目が合い、気がつけば綾人は寝ている詩を抱きしめていた。


「…意識が戻ってよかった…」


いつも冷静な綾人が取り乱している姿を初めて見た詩。


驚きながらも、抱きしめられる温もりの心地よさに身を任せる。


「…肺炎で意識が無くなっていたんだ。一時はかなり危なかったんだぞ…」


綾人の背中が小刻みに揺れていることで綾人が泣いていることに気づいた詩は、細い手を必死に動かし、自身も涙ぐみながら綾人の頭を撫でる。


うっすらとした記憶。


─そういえば、熱が出て、息が苦しくなって…



「……心配かけて…ごめんなさい」



綾人が詩の目を見つめる。



「…詩、戻ってきてくれてありがとう…お前を愛してる」


綾人からの告白に驚く詩。


だが、詩も言葉を絞り出す。


「綾人…私も同じ気持ちだよ。私も、綾人のことを愛してる…」


抱きしめ合う2人。



愛する人が、戻ってきてくれた。


やっと想いが通じ合った。


綾人は自分が医者だと言うことも忘れ、詩を強く抱きしめていた。



「綾人…ちょっと…痛い…」


「あぁ、ごめん!」


「ううん、大丈夫。こんな綾人の姿、初めて見た」


イタズラっぽく詩が笑った。


綾人は少し照れくさそうに笑った。



長い眠りから覚めたばかりの詩は、その後続いた検査ですぐに疲れてしまっていた。


綾人は部屋を出て仮眠室に向かう。


仮眠室の硬いベッドではあるが、綾人はその日、久しぶりに熟睡することができた。