みんなの願いと綾人の全力の治療もむなしく、詩の体力はどんどん落ちていった。


ある日、恐れていたことが起こった。


免疫力と体力が落ちたことにより、詩が感染症にかかって発熱し始めたのだ。


何種類もの抗生剤を使用しても熱が下がらず、詩の意識は朦朧とし始めた。


次の日も、その次の日も熱が下がらず、ついに風邪をこじらせて肺炎まで発症してしまっていることがわかった。



できる限りの治療がなされていたが、状況は改善しない。

綾人らをはじめ、医療スタッフたちは頭を悩ませていた。



病棟には、詩と同じく、感染症にかかると命取りになってしまう患者がたくさんいる。

院内感染を防止するため、スタッフは詩の病室に長時間留まることが禁止され、夜間綾人が付き添うことも出来なくなった。


無菌室で、酸素マスクをつけられ、うめき声をあげながら1人で苦み続けている詩。


詩のそばにいてあげられらないことをもどかしく思いながらも、急変に備え、綾人は毎晩当直室に泊まり込んでいた。



次の日の午後、萌音がバイタルチェックと点滴の交換のために詩の病室に向かう。



─呼吸は荒いけど、バイタルは安定してる。


熱は…解熱剤を入れてるのに39℃か。かなりしんどそう…




「…あやと…?」


朦朧とする意識の中で、萌音のことを綾人だと勘違いした詩が、酸素マスク越しに、荒い息遣いで話す。



「詩ちゃん、ごめんね。先生は今回診中なの。呼んでたって言っておくね」


「…綾人…ごめんなさい…」


意識が朦朧としていても、自分が綾人に迷惑をかけてしまっているという気持ちは消えない。


詩は悪寒で震えながら、閉じた目から涙をこぼしていた。


「…詩ちゃん大丈夫よ。苦しいね…」


青白い色をした冷たい頬に伝う涙を、優しく拭く萌音。


詩は呼吸が荒いながらも、なんとかかすれた声で話そうとする。


「綾人…ほんとはね…大好きなの…いつも…ありがとう…」


「…詩ちゃん…」


詩の気持ちに驚く萌音だった。