抗がん剤の服用を終えてからも、詩はあまり食欲が戻らない日が続いた。



「詩ちゃん。少しでもお腹に入れてね。体力をつけるためだよ」



配膳されたものの全く手がつけられていない昼食を見て、萌音が声をかける。



「…食べられない…」


入院前は、大きな目をキラキラ輝かせて笑う笑顔が印象的だったが、辛い治療により目から輝きは消え、笑顔は見られなくなってしまっていた。


「何か食べられそうなものはある?生物はだめだけど、缶詰のフルーツなら食べやすいかな?」



「気分が悪いし、口の中が痛いから、何もいらない…」



抗がん剤の副作用のひとつの口内炎がひどく痛み、ほとんど何も口にできなかった。



綾人が買ってきてくれたゼリーだけはなんとか昨日まで食べられていたが、今日はもう何も食べたくなく、話すことすら苦痛だった。


話している少しの間だけでも、吐き気が出てきてしまう。



「う…ゲホッ、カハッ……」



洗面器に向かって嘔吐する詩。


目には涙が滲んでいる。



「しんどいね…」



背中をさするしかできない萌音。



─まだ18歳で、しかもこんな小さな体で、たった1人で闘ってるなんて。



こんな辛い思いをしている分、いい結果が出て、早く退院ができるよう、祈らずにはいられなかった。