治療を始めて10日が経った日の夜中、詩の病室から戻ってきた綾人が、医局で大きなため息をついていた。


詩には特にひどい副作用が現れている。


食事も睡眠もほとんど摂ることができず、治療前よりも、明らかに弱ってきてしまっている。


そんな詩の治療に全力で当たっている綾人も、日に日にやつれていっていた。


日中の仕事はいつも通り完璧にこなしていていたが、目の下にクマが濃くなっていく。


デスクには栄養ドリンクの瓶がたまってきていた。



その日夜勤に入っていた萌音は、そんな綾人の姿を見て胸が苦しくなった。




─好きな人が苦しむ姿は、見ていてつらい。


いつからだろう。


初めは完璧な仕事ぶりを尊敬していただけだったのに。

いつからか、先生のことを、つい目で追ってしまうようになった。


これまでの先生の態度から、自分のことなんて眼中になく、思いが成就することはないのはわかっているけれど。


今は詩ちゃんの治療がうまくいくように、私も頑張らないと。


せめて、少しでも綾人の役に立ちたいと思う萌音だった。