抗がん剤治療を始めてすぐに、強い吐き気と全身の痛みが詩を襲った。


吐き気止めを使っていても、何も食べられないどころか、食べてもいないのに吐いてしまう。


そして、ただ横になっているだけなのに、手や足が痛い。


「うう……」


つい、声が漏れてしまうほどの苦痛。


体は猛烈にだるくてすぐに寝たいのに、吐き気と痛みで眠れない。



病院に泊まり込んでいる綾人は、そんな詩が心配で、夜中も度々詩の元に向かう。



「う…ゲホッ……いやだよ……」



夜中でも詩がうめき声をあげているのを見ては、ガウンと手袋をつけながら、詩の背中をさする。


痛み止め、吐き気止めを投与しても改善しない詩の様子に、綾人は頭を悩ませていた。



「あや…と…」


「つらいな。ここにいるから」


「うん…ありがと……」



─綾人がそばにいると安心する。


思えば、いつも私を助けてくれる。


お医者さんになってからも、忙しいはずなのに、私の体調を気にかけてくれて。


怖いと思ってたけど、私のことを思って、精一杯大切にしてくれていた。


ありがとう、綾人。



私の、大好きな人…



綾人にさすってもらっている間だけは、少しの間苦痛が和らぎ、眠ることができる詩だった。