目が覚めると、点滴を変えようとする萌音と目が合った。




「あ…詩ちゃん。目が覚めたね。先生呼んでくるね」



どこか悲しげな表情の萌音に、詩は嫌な予感がした。




足音が近づき、綾人が部屋に入ってきた。




「詩、少し休めたか。検査結果だが…落ち着いて聞いてほしい」


「…うん」


─綾人、苦しそうな表情してる。そんな顔しないで。



「詩はいま、急性リンパ性白血病になっている。赤血球も減って貧血になっていて、昨日倒れたのはそのせいだ」


「…私も…?白血病なの…?」


「…そうだ。詩の体は今とても免疫力が下がってしまっていて、そのせいで熱も出てる。危険な状態だから、今からすぐに無菌室に移って抗がん剤の治療をしよう」


言葉を失う詩を前に、綾人自身の動揺も必死に抑えながら、努めて冷静に話を続ける。


「そして、抗がん剤治療で寛解してから、ドナーからの移植を待つことになる」


「…」


なんとなく嫌な予感はしていたが、トラウマになっている"抗がん剤"という言葉を改めて聞くと、頭が真っ白になる詩。



「私もお母さんみたいに、苦しんで死ぬの…?」


「詩…そんなこと…」


綾人が話し終わるのを待たずに、詩が大声で話す。


「ずっと検査も受けて来てたし、喘息の治療だって頑張ってきて、ずっと我慢ばっかりして、やっと普通の高校生活を送れるようになってきてたのに、なんで…!!」



今まで我慢していた思いが溢れて大声で泣く詩。


いつも前向きで穏やかな詩が、初めて本音を吐き出している。


そんな詩を落ち着かせようと、萌音が近づく。


しかし、綾人がそれを遮る。


「ごめん、永田さん。しばらく2人にしてくれないか」


「…わかりました。何かあればおっしゃってください」


萌音が病室から出て行った。