「どしたん眉間に皺が」
「失礼すぎてどうしようかと」
「うは、それはごめんな」
悪びれるようすもなく笑って、断りもなくわしゃわしゃと頭を撫でてくる。なんというか一歩間違えれば通報しているかもしれない、と思った。
「でもほんとのことだからさ。顔、大丈夫そ?」
「どういう意味ですか」
「失恋したみたいになってる」
「……まさか」
軽く笑ってみせると「なんだ笑えるじゃん」と返ってきたので真顔に戻した。
それより、まさか失恋に勘づかれるとは。変な人だと思っていたけど、色々な意味で警戒しなければならないかもしれない。
「手持ち花火のほうが俺は好きなんよ」
「……へぇ」
「君はもっと人に興味持ったほうがいいよ。キョーミを」
「……はぁ」
苦笑いをすれば、へらっとよく分からない笑みが返ってくる。それは嘲笑でも失笑でも微笑でもなくて。今の笑い方に意味をつけろと言われたら、私は言葉に困ってしまう。
「花火って結構高いのなー」
「……物によると思いますけど」
「これいくらだったと思う? 五千円近かったんだよね」
「それを、ひとりで」
「五千円っていったら、単行本四冊くらい買える」
「すいません、本とかあまり興味なくて」
単行本うんぬんはよく分からないが、とにかく本好きからしたらかなり痛い出費だということは分かった。
そしてどうやら、彼は一人でこの大掛かりな花火をする予定だったらしい。
ふつう、花火って仲良い人とやるから楽しいんじゃないのか。それか、純粋に花火を楽しむのであれば千円くらいで買えるものもあるだろう。
それを五千円分、って。散財にもほどがある。
「ちょっとミスったんだよね、俺。だからさ、付き合ってよ。花火がもったいないから」
「……」
「あ、お金とかとらないから安心して。全部こっち負担ね」
ーーどうせ花火大会行かないんでしょ。
続けざまにそう言った彼の、少し明るい茶髪が揺れる。
「じゃ、やろ」
ほい、と軽い素振りで手持ち花火が差し出される。近くには蝋燭とバケツまで用意されており、準備は完璧だった。