「私は成海奈々。高校二年生」

「成海さんの家はもともと別の家族が住んでいたんだ。俺が生まれる前だから親から聞いた話なんだけど、突然引っ越して行ったそうだよ」

まさか、いわくつきってこと?

「家で何か変なことはなかった?」

変なことはなかったが、気になることならあった。

「私の部屋のクローゼットの奥に、小さい小部屋があって、入ってみたら、赤いクレヨンで文字が壁一面に書かれてた」

私がそう言うと、桐ヶ谷くんは一枚のお守りを取り出して、私にくれた。

「今夜は、このお守りを肌身離さず持っていて。そうすれば大丈夫だから」

私はよくわからないまま、渡されたお守りを受け取った。


その日夜。

私が眠っていると、クローゼットの中から子供がすすり泣くような声が聞こえてきた。 

私はその声で目を覚ました。

「え?何この声…」

「お母さんごめんなさい…ここから出して…」

啜り泣く声と共にそんなことを言っているのが聞こえてきた。

その声は、あのクローゼットから聞こえてきた。

私はベッドから降りて、クローゼットを開けてみた。

何も聞こえてこない。

気のせいだったのかな? 

そう思って、ベットに戻ろうとした。

「いたっ」

足で硬い何かを踏んだようだ。

拾い上げると、あの小部屋にあった赤いクレヨンだった。

「きゃっ」

視線をベットに向けると、小さい男の子が体育座りをしてべットに座っていた。

(そうだ。お守り…)

私はパジャマのポケットに入れたお守りを出した。

すると、男の子ともう片方の手に持っていた赤いクレヨンが消えていた。


いつの間にベッドで寝たのか、朝にはベットの上で目を覚ました。

昨日のことは夢だったのかと思ったが、私の手にはしっかりお守りが握られていた。

朝ごはん食べていたら、玄関からのインターフォンが鳴った。

お母さんは、仕事に行ってしまったので、玄関を開けた。

「おはよう。昨日は大丈夫だった?」

桐ヶ谷くんが立っていた。

「ちょっと来て」

私は桐ヶ谷くんの腕を掴んで、リビングに連れて行った。

「昨日の夜中に、小さい男の子の声が聞こえたの。クローゼットを開けたら音は消えたんだけど、赤いクレヨンが床に落ちてて、男の子がベッドの上に座ってた」

「やっぱり。成海さん、そのクローゼット、見せてもらってもいい?」

私は桐ヶ谷くんと一緒に部屋に向かった。

「昨日音が聞こえたのはこのクローゼット?」

桐ヶ谷くんの問いに私は頷いた。

「成海さんはこんな話聞いたことある?」