「それから、一人で帰っている子を見かけたら、赤い着物を着た女の子が話しかけてきて遊びに誘ってくるらしいわ」

「その子を見かけたら、どうすれば助かるの?」

お母さんは腕を組んだ。

「どうだったかしら。誰かと一緒に帰れば大丈夫とか、その女の子の好物は飴だからそれをあげれば助かるとかそんな感じだったと思ったんだけど、よく覚えてないわ」

私が桐ヶ谷くんから聞いた話とはだいぶちがう。

それとも、噂は二つあるのだろうか?

次の日の帰りに、私は仲良くなった未来ちゃんと一緒に帰っていた。

「あの子、誰だろう?」

未来ちゃんが指さしたのは神社の鳥居の前に立っている女の子だった。

赤い着物を着て、手には鞠を持っている。

昨日お母さんが話してくれた話と似ている。

「お姉ちゃん、一緒に遊ぼう」

女の子は手招きをしている。

「うん。いいよ」

未来ちゃんは、ふらふらと女の子に近づいて、鞠を受け取った。

強い風が吹いて、私は思わず目を閉じた。

風が止んで目を開けると、未来ちゃんとあの女の子は消えていた。

「未来ちゃん?未来ちゃんどこ行ったの⁈」

大声で呼んだが、返事はなかった。

嘘でしょ…?

消えちゃったの?

私は急いでスマホを取り出して、桐ヶ谷くんに電話をかけた。

何コールかで電話に出てくれた。

「もしもし?」

「桐ヶ谷くんどうしよう!あの神社を通って帰ったら、未来ちゃんが消えちゃったの!」

「落ち着いて。今いくから待ってて」

そう言って電話が切れた。

しばらくして、桐ヶ谷くんが走ってきた。

「もう夜遅いし、家に帰ろう。明日、ちゃんと話聞くから」

その日はほとんど眠れなかった。

次の日、寝不足のまま学校に行った。

未来ちゃんはまだ来ていないようだった。

私はクラスの女の子に話しかけた。

「ねぇ、未来ちゃんってまだ来てない?」

その子は目を丸くした。

「未来ちゃんって誰?そんな子このクラスにいないよ」

え…どういうこと?

クラスの何人かに未来ちゃんのことを聞いたが、誰も未来ちゃんのことを覚えている人はいなかった。

「なんで誰も未来ちゃんのこと覚えてないの…?」
放課後になり、私と桐ヶ谷くんは街の図書館にやってきた。

「ここだと手がかりが見つかるかもしれない」

桐ヶ谷くんは何冊か本を持ってきて机に置いた。

「この街に関する郷土史なんだけど、これにあの神社のことが載ってたんだ」

桐ヶ谷くんが開いたページを覗き込んだ。

『神隠し神社』の由来

「あの神社って神隠し神社って名前だったの?」