ミトラスとしては慌てふためく妻が愛しい。それでいて、からかい甲斐があるのだ。

 ここは賢者の森、二人の世界だというのに周囲を探るセミラ。

「ふぅ、寝室に閉じ込めて聞き出す他ありませんね」

 肉食動物さながら舌なめずりをするとセミラへ手を伸ばす。

「カァカァ、ミトラス様〜セミラ様〜」

 そこに買い出しを頼んでいた使い魔が割り込む。
 捕食の機会を奪われたミトラスはカラスに掴みかかる。

「君は夫婦の時間を壊す天才? それとも僕の使い魔? 後者なら雰囲気を察せないかな?」

「やめろ! ミトラス。どうした? 何があった?」

「あーん、セミラ様〜! ミトラス様が虐めるんですよぉ、使い魔虐待です!」

 カラスはさっとセミラを盾にして、彼女の同情を引こうとした。
 このあざとい使い魔の介入によって、ミトラスがせっせと育んだ甘い雰囲気が台無し。
 セミラは彼が肩を落とす理由は分からないものの、手を繋ぎ屋敷へ帰ることにする。

「ミトラス」

「……なんです?」

 とぼとぼ歩く姿にセミラは眉を下げ、背中を擦ってみた。

「私の愛情表現が乏しくて物足りないのであろう? すまない」

「いえ、僕が浮かれ過ぎているので気にしないで下さい」

 セミラが足を止める。風が舞い上がり、金色の髪が靡く

「ミトラスは感情の機微を読み取れない私の為、喜怒哀楽をはっきり示すようになった。ありがとう、貴殿の気持ちを知れるのは助かる」

 ミトラスは光景に黒い目を細め、そういえば最初に対峙した際も彼女の髪に見惚れたのを思い返す。
 お互いあの頃はこんな風になるなんて考えもしなかった。