祭りから数日後ーーセミラが森で図鑑を開いていると背後から気配を感じる。

「おかえり、ミトラス」

「はぁ、貴女の勤勉さには呆れてしまいますねぇ。仕事を終えたばかりでしょうに」

 ミトラスはセミラを抱き締め、膝の上の資料を閉じた。

「知識を司る大賢者の言葉とは思えないな」

「いいんです、貴女の夫として言っているのですから」

 頬を擦り寄せてくる仕草を撫で、セミラは言葉を続ける。

「あんな騒ぎを起こしたのに団長の任を解かれなかった。ミトラスや団員が嘆願書を出してくれたお陰だ。私はその恩に報いたい」

「はいはい、その旨は何度も聞きましたよ。団員も聞き飽きたと言いません?」

「はは、言ってるな。だが、こうして繰り返し伝えたいんだ。ありがとうミトラス」

 セミラとミトラスの関係は険が取れ、支え合う距離感となった。夫婦らしい接触も多くなり、セミラから頬へ口付けを送る。
 すると軽い口付けが物足りないのだろう。ミトラスは横へ腰掛け、肩を抱く。

「僕等の結婚では騎士団と共に魔術師も警護にあたります。あんな事態は絶対に起こしませんよ」

 魔術を用いた暴動は騎士団だけでは制圧が難しい。ミトラスは魔術師も警護に加わる計画を提唱し、採用される。むろん一筋縄じゃいかず、関係各所への根回しは必要だった。