力なく項垂れるセミラは唇を噛むことさえ叶わず、はぁはぁと息苦しさを吐く。

「手荷物検査が甘かったな。危険物を持ち込ませてしまった」

「あの炎は魔術で巧妙に隠されていました。騎士が念入りに検査したところで発見できないと思いますよーーそれより」

 ミトラスも屈み、目線を合わす。   
 灰まみれの騎士と美しい大賢者の対比が脳内に描かれたセミラは首を横に振り、纏めた髪が解ける。

「こんな不祥事を起こせば団長の座を降ろされる。団員の信頼も損ねてしまった。私はもう貴殿と結婚する身分じゃない、どうか放っておいてくれ」

「指輪」

「あ、あぁ、そうか、指輪か。返そう、これは貴殿のものだからな」

 外そうとするも、締め付けられ上手くいかない。

「また意地の悪い呪いを施したのか? 指輪が熱い、きつくて外せないぞ」

 これはミトラスに外して貰うしかない。セミラが手を翳すと、彼はおもむろに重ねてきた。

「け、賢者殿?」

「僕の指輪もずっと熱を帯び、締め付けてきます。貴女と同じですよ」

 そう言い、ミトラスはセミラを抱き寄せる。いつの間にか黒い外套姿になっており、セミラは闇夜に包まれた気分となる。

「もう一度伺います。団長を辞めてまで僕と結婚したくなかったのですか?」