使い魔に急かされるミトラスへ目線をやれば、その冷たい顔付きで体感温度が下がる。

「勝手に婚約破棄をしようなど困ったものですね。撤回して下さい、そうすれば炎を消して差し上げます」

「は、こんな時でも条件をつけるんだな! 私のことより皆は無事に避難できたのか? 犯人は?」

 セミラを取り囲む炎は意思を宿すのか、檻のように広がって彼女を捕らえる。これでは事態の収拾は察しにくい。

「お嬢さんの部下がちゃんと誘導してくれて、怪我人は出てないよ。犯人はミトラス様の術によって拘束されてるから平気」

「ーーそうか、なら良かった。教えてくれてありがとう」

 相手が動物であっても礼を言うセミラ。

「なんでいいの? 部下がお嬢さんを助けに来ないんだよ? 普通、怒らない?」

「団長自ら変革を訴えたんです、反発があって当然かと。団員は貴女に否定されたと受け取ったでしょうね」

 ミトラスはセミラの行動に伴う危険性を説く。

「騎士団長の立場を捨ててまで、僕と結婚したくないとは……正直、傷付きました」

 指が弾かれ、炎が消えた。がらんとした空間に煙の臭いが満ち、今にも着火しそうな黒い瞳が瞬く。

「早く助けを求めないから、前髪が少々焦げてしまいましたか」

 触れられる気配にセミラは仰け反った。身体と精神がひりつく中、うかつに撫でないで欲しい。

「消火して、そのうえ犯人拘束にまで協力して貰って悪いな、助かるよ。ありがとう」

 セミラはその場に蹲る。