「仕組まれたとは?」

「惚れ薬を飲んだのですーー自らの意志で」

 いっそ、ミトラスに対しての心の揺らぎを薬の影響にしてしまえればいいのに。
 ミトラスを以前のように疎ましく感じない、軽口の叩き合いが楽しいとさえ思える自分を認めざる得ない。

「私が懐柔されてしまったら騎士団はどうなるのでしょう? それが怖いのです」

「……こんな時でも貴女は自分のことでなく騎士団を案じるのね」

 一方、女王はセミラの吐露にミトラスへの配慮も読み取った。この国で惚れ薬を作れる魔術師がいるとすれば大賢者しかいない。つまり、セミラが被験者となる経緯は察して余る。

 考えてみれば、噂話とはいえど街に飛び交う不安の芽を摘まない理由がないのだ。女王の耳にしっかり情報は届いているはず。

 セミラは惚れ薬の存在を伏せておくのは忠義に反するため出来なかったものの、ミトラスの暗躍へ言及しない。確証がないのもあるが、セミラが彼を疑いきれなかった。

 無論、そんな気持ちになること自体、薬の影響だと指摘されてしまうだろう。だが、彼女は心のまま突き進みたい。

 女王はセミラの実直な性格を好ましく思うと同時、ミトラスの簡単に人を信じない分、心を許したら迷わず手を差し伸べる性格を頼もしく思う。

「惚れ薬の効果を打ち消す方法を知っているわ」

「本当ですか! どうかお教え下さい!」

「えぇ、えぇ、もちろんよ。わたくしの大切な翼になら特別に教えてあげる」

 ヘリオトロープはにっこり微笑んだ。